四 季 の 小 路
  
大窪孝子(利尻町/道)
  蜘蛛の囲の窓に淋しき完成図
  シベリアを語りて月の皓皓と
  力なき乳房に円ろし十三夜
  時化日和漁夫藤棚へ森の中
  初蝉を降ると聞きつつ足湯かな
  
大坂博(札幌市)
  牡丹の散りぎわ花瓶割るる如
  坑深く石炭掘る父は蟻の如
  忘れ得ぬ終戦の日の油照り
  蟷螂は斧が生き甲斐老いの意地
  農空し実りし稲穂土砂に埋み
  
大崎富美子(札幌市/姫りんご)
  新元号待たれて今日の花曇
  平成の緞帳さがり四月尽
  坪庭の光ゆらして蝶の乱
  日を迫ふて数増す木槿散るむくげ
  樺百幹冬のお山に溶け入りぬ
  
大澤淳基(札幌市/壷・岳)
  雪のチセ裏手に祀る熊頭骨
  理に生さて理を離れよと大氷柱
  プランクトン散らし流氷ちりぢりに
  狐火や隠しとほせぬ嘘の顔
  くたびれて何を食はむかまず冷酒
    
大澤久子(札幌市/天為)
  月の波寄せて濁れる鰊群来
  六月の山気降りくる坐禅の間
  オホーツクの花野つづきに沖の蒼
  倒木の下に墓誌ある厄日かな
  冬涛の掴む半島絵師育て
  
大谷博光(札幌市/道)
  初雪を踏む楽しさは鴉にも
  ポスターの名残の画鋲風光る
  春遅々と秒針もたぬ時計台
  ブランコと滑り台ある空家かな
  自蝶も黄蝶も同じ色の翳
  
大谷米子(黒松内町/アカシヤ)
  草分けて草分けて摘む夏蕨
  渦を巻き雪の野原を風奔る
  青鷺の声明け方の森ゆする
  浅春の尾根を歩くにスノーシユウ
  破芭蕉の根方をゆるり池の鯉
  
大玉文子(新十津川町/阿夫利嶺)
  君影草父の七十七回忌
  久々に声の届きし朧の夜
  山菜に鈴蘭の束添へて着く
  墓洗ふ卆寿迎ふと告げながら
  山法師孤独ではなしピンネシリ
  
大塚信太(旭川市/玉藻・ホトトギス)
  家焼けしあと大寒のきたりけり
  毛糸編むときどき唄も絡ませて
  腰つきが怖がつてゐる初スキー
  山焼の煙に月の百面相
 大鷲の風を乗り換へ空滑る
  
大槻独舟(札幌市/玉藻・花鳥)
  初桜いつ気に動く北の街
  咲き初めし枝垂桜にある風情
  夜桜の宴は続く留処なく
  雪残る嶺が見下す街の春
  花辛夷石狩河口見ゆる丘
  
大西岩夫(旭川市/雪華)
  佳き風の乗らに過ぎてつつじ咲く
  さへづりの静やかにして時深む
  黒闇の花とありませサイネリア
  夜には夜の光しづめて雪解道
  新らしのひとつを乗せて春の風
  
大西順子(札幌市/ホトトギス・柏林)
  古稀の吾の書きし履歴書草紅葉
  古稀の吾へ採用通知もみぢ晴
  人相のうすくれなゐへ二重虹
  風紋を俯瞰し芭黄金色
  蝦夷九月胆振の山の景以還
  
大野甲音(利尻町/道)
  陽光は天使の梯子帰り花
  啓蟄や遊具の穴に子の笑顔
  海原に落ち行く星座多喜二の忌
  島一円蝉の浄土となるタベ
  礼笛も銅鐸も夕焼の海へ曳く
  
大野喜和子(札幌市)
  こんな日もあったと想う春の雪
  捨て難きものや終活花は葉に
  ふりむけば空方円のビル残暑
  もみじ実のふくるる傾斜湖楚々と
  綿虫や逃げる子の手の戯け癖