四 季 の 小 路
  
藤井静子(札幌市/雪解)
  夕風に翳のはりつく花の冷
  人こゑ去り桜大樹にどつと冷
  万緑に押しっぶされて廃居あり
  少しづつ風のこはばる蝦夷九月
  風に群れ風に流され夕とんぼ
  
藤嶋正(札幌市/雪嶺)
  思い出は一つだけある古暦
  春泥やあちこち向いた靴ばかり
  暗闇を二つに裂いて猫の恋
  手のひらで庇をつくる薄暑かな
  白南風やペンキのついた舫い綱
    
藤瀬正美(北見市/ホトトギス・玉藻)
  なほ香りつつ庭のリラ朽ちて行く
  生後三月の百の牛夏の市
  流氷の退きし海原なりしかな
  雲流れゆく大雪野果つるまで
  雨兆すそんな色して馬鈴薯の花
    
藤田紀子(札幌市/澪)
  薄氷を踏みて試練の門に入る
  交番の影なき窓にヒヤシンス
  春光や菩薩のおはす志功展
  白秋の詠みしこの道針槐
  囲まれて西瓜切る音潔し
  
藤田美和子(札幌市/河)
  ホチキスに紙を噛ませて獺祭忌
  立冬や貌なき魚の干されたり
  転生の繭得たるかな春眠す
  万緑の向うに君の海がある
  三伏や女の意見まとまらず
  
藤田保子(札幌市/雪嶺)
  蝉しぐれ深山は命受けとめて
  靄深く鎮もる大河余寒なほ
  目を伏せし雪の石仏聞く無音
  花芒風をつれゆく一両車
  梅香る文字は楷書の開拓碑
  
藤田洋子(小檜市/鶴)
  虹の肺アスパラガスの葉叢より
  妹は姉よりのつぼ吾亦紅
  とどの仔のジャンプの稽古厄日凪
  とんばうと日向の石に休みけり
  人形劇こぐま座開演木の実ふる
  
ふじもりよしと(札幌市/雪華・itak)
  錦秋や迂回してくる撞木鮫
  掌に海の匂いの鎌鼬
  狐火やうしろぼっかり板門店
  直立は国家の為の鯨かな
  三人称単数現在雛の家
  
藤森そにあ(札幌市/雪華)
  平和尊し秩父音頭に斑雪
  芋の芽摘むアンネフランクの事
  牡丹や咲ききる力散る力
  雪が降る空也の口に六阿弥陀
  焼鰰しっかり生きた眠が二つ
  
藤谷和子(札幌市/草木舎)
  海市から兄の帽子が戻らない
  マルポロのけむり西東三鬼の忌
  蛇衣を脱ぎ国境を越えにけり
  リスボンの電車に蹤いてゆきし蝶
  戦争を歩く炎天の足のうら
  
藤原文珍(札幌市/鷹)
  星祭路面電車の循環す
  デーゼルのスイッチバック山眠る
  禽獣に空の広さや流氷原
  海猫渡る貨物船には露西亜文字
  蝦夷躑躅岬の雲の疾さかな
  
船尾恭子(江別市/森の座)
  戦中を経し八十路なり年の豆
  北海道百五十年えぞさくら
  親の目が光り真つ直ぐ生きし汗
  食難を凌ぎし父母や終戦忌
  天仰ぎ九月は苦月また余震