四 季 の 小 路
 
吉野早苗(札幌市/樅・郭公)
  川音の少し明るき春隣
  里山の暮れてゆくなり蕗の董
  多喜二忌や鉄路の絶ゆる漁師町
  日本狼滅びし地とや日の永き
  手袋の片手ベンチに日暮れけり
 
吉村佳峰(札幌市/ホトトギス・玉藻)
  重ねたる齢抱へて寝正月
  野の匂ひ母のにほひの蓬餅
  ひと駅は歩く健康夏帽子
  不器用に生きて満足敬老日
  小さくとも大きな願ひ熊手買ふ
 
依田明倫(奈井江町/ホトトギス・夏至)
  祝言の明日へセーフ夏シャツも
  夏シャツの輝きすぎのミシガンで
  幾白夜これこれカナダエレーベト
  幾白夜幾泊りまだカナダ沖
  夢直しせんカナダの子夏のシャツ
  
米坂節子(札幌市/蒼花)
  明け渡す家の広さや乳房冷ゆ
  春灯しルーペで辿る赴任の地
  のどけしや和紙に吸はるる墨の色
  夫あらば踊るルンバよ風光る
  曲り角きっと振り向く白日傘
 
米澤康寧(札幌市)
  啓蟄やひまを貰ひし母送る
  後先のありしこの世よ凍て返る
  里帰り十六豇豆つひねだる
  掃苔や坂道をゆき水を汲み
  母病みて係累つどふ御慶かな
 
米澤洋子(札幌市)
  帰省空陽ざしやはらか母に似て
  秋時雨病の母を見舞ふ旅
  母見舞ふ思ひを共に雪の富士
  母逝くや弥生の空に母逝くや
  母逝くや合掌なみだ忘れ雪
 
渡部彩風(北見市/道)
  古雛の髪をととのへ供養寺
  清らかに水の惑星水芭蕉
  空蝉の空の探さを掴みけり
  紅を差す鏡の中の秋思かな
  暖房の薪整然とログハウス
 
渡辺孝子(登別市/夏至)
  菊人形あの頃弁慶牛若丸
  ひとつ影障子明りに見て眠り
  かいつぶり涛積丹の岸に寄り
  枕元小さき人形七福神
  白髪や向日葵畑に紛れ込み
 
渡辺のり子(札幌市/氷原帯・ロマネコンティ)
  真白な錠剤である花の冷え
  水底にガラスの棺春の月
  みじんぎり春玉葱と挫折感
  春キャベツほどの重さの恋をする
  梨をむく指からも水生動物
 
渡辺博生(岩内町/ホトトギス)
  雪解急稜線の木々立ち上がる
  青さ増す堅き水音雪解川
  青嵐の満ちて地球の息づかひ
  鰯雲影置く穂先槍ヶ岳
  潮鳴りの荒さに加へ雪の降る
 
渡辺フミ子(札幌市)
  ムクドリや雲路急ぎし群のなか
  山ひだの残雪いまだ多いかな
  仰ぎ見る記念樹木や風光る
  砂時計落ち切る前の通り雨
  絵日記や灯台めぐる夏の旅
  
渡部まりん(札幌市/鷹)
  三月の海鳴り聞こゆ歓楽街
  音読におたまじやくしの踊りけり
  蝲蛄の脱皮羨ましくもあり
  戻れざる日のあればこそ竜の玉
  此の国の善悪雪の降り積る
 
渡辺嘉之(古平町/道)
  初空へ鴎が一羽翔んでみよ
  寒鴉肩を揺らして浜滑歩
  早乙女も老いて田植の始まりぬ
  望郷の空へ溶け行く赤とんぼ
  灯の消へず冬野の果ての岬かな
 
渡辺理沙(岩内町/ホトトギス)
  春眠や夢の世界のはひり口
  扇風機二台回して風を生む
  源流の音に涼しき森の道
  満天の星や静かに山眠る
  北風に息する余裕なかりけり
 
和田伯遊(札幌市)
  鶏頭の深紅妖艶燃へたてり
  推敲の惑ひに入りぬ後の月
  限りなく生きる哀史や花は葉に
  雲海を眼下に展げ山男
  病葉や詮なきことは胸の内