四 季 の 小 路
 
藤原美栄子(むかわ町/葦牙・氷原帯)
  余寒なお逆さに振りし小銭入れ
  生きもののすべてに母あり聖五月
  直角のおじぎを返えす新社員
  万緑も吾も時間の中におり
  鈍行の通らぬ線路枯すすき
 
船尾恭子(江別市/森の座)
  はらからに祝がるる半寿花の城
  天守より桜と田畑絶景かな
  冷汗や鳥に夏帽掠められ
  父母在さば百余の齢二つ星
  秋の薔薇小事成せりと肩ゆるむ
 
舩島美恵子(千歳市)
  正月や絆深まる四世代
  初蝶を追ひかけ曽孫良く歩き
  立付けの軋み気になる梅雨じめり
  どの窓も全開北の猛暑かな
  万緑に映える伏見の朱の鳥居
  
船矢深雪(函館市/艀通信)
  指折りし四十九日や桜咲く
  名残り雪異国の人の譲る席
  大正のバルコニーから秋の蝶
  鱗雲沖見続ける嘉兵衛像
  ひよどりや波すれすれに群なして
 
古川ウヰ子(江別市/郭公)
  少年のうなじまぶしき鳥曇
  恋の鳥羽搏きあひて雪こぼす
  雷雲に眼窩のやうな空が現れ
  翔ぶものにもろ手をあげて立夏の樹
  雲に入る絹のひかりの草の絮
 
古川かず江(札幌市/晏)
  草萌ゆる土偶にしかと鼻の穴
  一歩ずつ影引きはがし炎暑かな
  雲の峰葉っぱ一枚笛にして
  風が運ぶ水の匂いや原爆忌
  二百二十日デニッシユパンは渦を巻く
 
辺見綾子(小檜市/ホトトギス)
  数の子を噛む歯健在八十路なる
  寒の月この世あの世の隔てなく
  出て歩くところのありて風光る
  気にかかるもの今はなし朝涼し
  身に入むやふと待たれゐる心地して
 
星徳男(札幌市)
  春禽の即かず離れず鳴き交し
  ずり山の輪郭黒き月明り
  歳月をたたみしままの京扇
  一人居に慣れて健在花菖蒲
  人去れば家朽ち易し木の実落つ
 
星トモ子(札幌市/はるにれ・玉藻)
  古蔵は出入り自由よ軒燕
  でで虫や出自札幌在札幌
  冷酒や漢の本音もうそろそろ
  この鳥居くぐれば登山道となる
  薬指折ることならず赤とんぼ
 
星星予(札幌市)
  白灯のごとき導きチューリップ
  旅立ちし夫の傍へにシクラメン
  新盆や長き法話を空で聴く
  お悔みの言葉とばせし扇風機
  遺影にもビールを供へ酌み交はす
 
堀井節子(音更町/柏林・花鳥)
  殻焼きの煙たなびき秋うらら
  ふたたびの小樽は桜紅葉かな
  風に揺れ風にたはむる紅葉かな
  峡紅葉廃線跡のアーチ橋
  思ひ出の沈むダム湖や秋気澄む
 
堀江紀代美(石狩市/道)
  母の忌の茶柱二本朝曇り
  庭下駄の風を誘い今朝の秋
  夜の戸口帰り待つかに秋の蜘蛛
  未来図の余白は小さく七変化
  まなじりに涼しき風や亡さ母来
 
掘川静彦(札幌市/道)
  城郭をおほふ桜の紅葉かな
  縛られてなほ枯菊の黄の極み
  声弾む七種粥の外科病棟
  真つ赤なる伽排の実や春日燦
  えぞにうや碑に海峡の悲話数多
  
堀川旦州(紋別市/葦牙・草の王)
  酪農に休みはなかり松の内
  海明けて海鳥言葉かけてくる
  燕の子生命力は大き口
  草笛の最後の一昔天に吹く
  敗戦日従軍手帳にある懐古
 
本間美喜(稚内市/ホトトギス・玉藻)
  上品に静かに裏の山笑ふ
  繕ひの時しかもたぬ針供養
  大花野果ては利尻の山仰ぐ
  対岸の宗谷岬は海霧の中
  秋探し朝夕変る山の景