四 季 の 小 路
西村山憧(札幌市/氷原帯)
戦争を知らぬ子で良し風車
リラ冷えや迷ってみたい通がある
やわらかな監禁ひまわり畑真中
白桃と傷つけ合っている少女
曲線は母の温もり寒卵
西元有子(旭川市/ホトトギス)
日差し来て雪間さわがし雀群
野の遠く菜花の黄らし一直線
雨あがり子鳥幾度も枝わたる
車寄せ花圃パンジーはみ出して
秋の日のひだまりまろぶ小犬かな
二丹田めぐみ(札幌市/ミモザ)
床上げし母の歩みや日脚伸ぶ
曲がること恥ぢること無き胡瓜かな
子等の声ゼロ番線の夏休み
四畳半縁に蹟く大西日
八月の遠く消へゆく浜辺かな
仁平信子(釧路市/湿原・ホトトギス)
この街も梅雨曇りあり海暗く
入船も見えぬ今朝また夏の霧
一日おきの晴と曇りや揚げ雲雀
名前届け握り直すや登山杖
雲の峰高きマンション呑まれそう
丹羽雅春(札幌市/葦牙・ホトトギス)
東京へ吾の背一押し雪解風
夏帽子人力車より迫り出せり
田水沸く地を故郷といま思ふ
二百十日地球溺れてゐたりけり
一周忌終へ肩の荷は蜻蛉のみ
庭田一美(札幌市/道)
受験子を点となるまで見送れり
同郷の風の匂ひや初鰊
花は実に亡き子へ届くEメール
雪渓を抱く黒岳父情ふと
風死すやふいに鳴り出す寺の鐘
沼尻世江子(函館市/艀)
涅槃図やかたまりながら声漏れて
生命線消える辺りに春の土
啓蟄や間歓泉の湯がはじけ
濯ぎ物たたいてゐたり爽竹桃
寒月や鍋の緑からすべらせて
沼田勝江(釧路市/ホトトギス)
霧の街シンボルめきし虚子の句碑
寄港終へ船笛残し海霧を航く
朝ごとに海霧立ち込むる釧路かな
しきり鳴る霧笛に似た船の笛
雨音に変はる濃霧のあしたかな
根本絢子(札幌市/若菜)
嬉しさを声に出しさうクロッカス
記念日に交す言の葉山笑ふ
朝霧や見知らぬ街に来しやうな
秋天の明るさのまま師逝きぬ
永別や師の胸もとに蘭飾り
根本栄子(小清水町/道)
一湾の波の焼舌冬鷗
百頭の牛の咀嚼や後の月
ひとり居の庭にこぼるる五十雀
山こだま此処が終の地草むしる
クナシリは未だ還らず鳥帰る
野崎声山(札幌市/葦牙・天為)
大門といふも名のみや銀杏散る
新走り信濃国の澄む日かな
秋篠へ詣づ色なき風の中
実むらさき業平竹に添うてをり
ひとしめりありたる朝の螢草
野崎知秋(札幌市)
終戦日無辜の魂折り鶴に
終戦日忘れられない古時計
バッタ来るどこへ翔ち村の中
更衣一張羅で旅支度
S Lの地を這う煙枯野原
野勢英一(幕別町/樺の芽)
探鳥会海鳴りひびく余寒空
戸を叩く風の連れ来し雪女
春風や両手をあげて滑り台
郭公や触れて冷たき樺の肌
一本の支柱も見えず虹の橋
能登恭子(札幌市/かでる)
船の旅これはこれはの栗御飯
ダ・カーポの歌や秋の野はさびし
秋祭おみこしさんは三輪車
十才の記憶が戻る終戦日
子規忌にて三十五で死す子規想う
野々村紫(札幌市/百鳥)
剪定の一枝晴れたり日本海
二月尽葡萄の蔓を薪に積み
浜ゑんどう鐻いくすぢぞ鰊釜
楡の洞透けて夏ゆく植物園
風白し小楢林の高きより