四 季 の 小 路
 
笹森俊行(札幌市/澪)
  空蝉の背の一文字決意かな
  竹槍も藁人形も終戦日
  少年の思ひは熱く鳥雲に
  八月の乾くことなき庇かな
  豊穣の棚田を祝ふ鼻珠沙華
 
笹谷雅子(石狩市)
  凩や青き扉の重きカフェ
  台本のなき人生や大夕焼
  友がゐて子がゐてしだれ桜かな
  ひるがえる運動会の大漁旗
  朝顔や住宅街の文具店
 
佐藤英介(札幌市/樅)
  寂庵をたづねて抜ける竹の春
  手袋の手話こころ根を伝へあふ
  春の水ピアスを揺らしひよいと跳ぶ
  自牡丹虚子見逃さぬ紅ほのか
  花虎杖海の青へとせめぎあふ
  
佐藤琴美(札幌市/白魚火)
  地下足袋の娘祭の真ん中に
  風青し小窓に揺るる山の影
  日焼顔見せて湖畔のヘルメット
  影二つ湖に落とせし夏の山
  六月の風に広ごる田んぼかな
 
佐藤尚輔(石狩市)
  雪の夜や哲学的な猫の顔
  雪しまきアンネの部屋を想ひをり
  室の花色を尽くして売られけり
  初がつを古典落語を聞さながら
  沖縄忌切り立つ崖の下は海
  
佐藤壽美子(札幌市/蒼花)
  樹木医のみちのく詑桜守
  風五月八十二才の万歩計
  病名をかくさぬひとの夏帽子
  新らしき敬老パスに風薫る
  ゐるはずのなきははの声餅の花
 
佐藤富子(札幌市/青女わかくさ・若菓)
  延齢草九十三の母に咲く
  濃あぢさゐ母に頼られ頼りゐて
  あらぬ方へ玉の転がる運動会
  銀杏黄葉明りに古りし薬学部
  大根抜く祖父の渡道の開拓地
 
佐藤宣子(岩見沢市/ホトトギス・夏至)
  七日粥みどりの深み蓬莱山
  烏賊釣火水平線を持ち上ぐる
  紅白の睡蓮ともに蕊黄色
  夏潮のたましひうねりつつ青む
  音の交ふ天界地界送り盆
 
佐藤憲子(札幌市/かたかご)
  母眠る古刹の大樹若葉雨
  若駒の赤き轡や牧晴るる
  陽炎や直ぐに出て来ぬ親しき名
  言ひたきを納めて啜る心太
  老猫のひねもす眠る神の留守
 
佐藤久子(小樽市)
  さくらさくら卆寿の夫とあおぎけり
  カット西瓜の又カットして二人かな
  赤とんぼ乗せ公園のガツタンコ
  錦木の昨日にまさる炎かな
  膝元の秋日久しく抱きもして
 
佐藤日和太(函館市/艀通信・船団)
  白鳥の色を残した大沼湖
  ユーカラの海空大地風光る
  ミジンコの頭とんがる夏の闇
  槌の音の都会へ急ぐ鬼胡桃
  マフラーの隣へ伸びるフィラメント
 
佐藤冬彦(札幌市/アカシヤ)
  子孫曾孫全員集合初詣
  微震あり三・一一忘れなと
  武者人形曾孫に贈り一人酒
  父の日や八十五年の人生路
  白障子後ろ手に閉め舌を打ち
 
佐藤光子(札幌市/壷)
  朝顔の人に会ふやう花ひらく
  懐かしき人声のする雪解水
  蝦夷梅雨に葉はひらひらと人来ぬ日
  朝の庭ただ一人なり霧うごく
  雨降りて一人は淋し実紫
 
佐藤萌(札幌市/天為)
  此処よりはカムイの村よ新松子
  棒抗に片手袋の泣きさうな
  北海道と称し幾年冬木の芽
  青空のあを拡げをり百千鳥
  渓流に竿遊ばせて遠郭公
 
佐藤倞子(登別市/若葉)
  井戸跡のおもかげもなく花南瓜
  星ひとつ生れてどこかに残る虫
  杖をつく夫と並びて落葉径
  茅葺きの祠に弾むくぬぎの実
  膝病むと思ひつ仰ぐ七竈