四 季 の 小 路
 
小橋厚子(深川市/道)
  雑炊や湯気の上から生玉子
  点滴の夫のウインク水温む
  カンバスに絵の具のしのし深緑
  片蔭へおさげおかっぱケンケンパ
  汗まみれペンキまみれの皓歯かな
 
小林ひろ子(黒松内町/アカシヤ)
  塗り直し世代をつなぐ屠蘇の盃
  閑居の夫余花を楽しむ一人旅
  半時の庭の手入れに汗しとど
  足早にめぐる庭園秋の暮
  こはごはと凍ての夜道を戻りけり
 
小林布佐子(旭川市/道)
  氷像の魚の歯を彫る鑿づかひ
  鳥帰る絵馬に夕日の当たるとき
  水色を水よりもらひ糸とんぼ
  夕暮の柳のゆらぎ夢二の忌
  鉄橋の軋みに咳をこぼしけり
 
小林真由美(札幌市/澪)
  光差すはうへはうへと室の花
  ガウデイの空突く塔や日の盛
  かなかなのつつと身に入り放心す
  朝ぼらけ霜に音あり匂ひあり
  やん衆の如き男の年の市
 
小林みさ(江別市/蒼花)
  励ましを呉るる冬芽の開き初む
  退院の夫の背な押す春一番
  鶏頭の花真っ盛り生くるべし
  七夕や健やかといふ願ひごと
  けふの空きれひな匂ひ秋立ちぬ
 
小林道彦(札幌市/道)
  反俗な生き方もあり紫木蓮
  五月雨の入江に舫う孤舟かな
  自らの谺と遊ぶ閑古鳥
  退路なき雑兵のごと蟻走る
  突堤の孤影宥める夕焼かな
 
小林ろば(東川町/葦牙・海程)
  欠伸ですかいいえ蝶が生まれます
  絶叫は足の指より青すすき
  八月六日火傷しそうなパイプ椅子
  一粒の種一片の馬の骨
  感情に木あり石あり蝉の声
 
小松きみ子(札幌市/花桐)
  乳母車起き子バッチリ風薫る
  機飛びぬ大夕焼けの真中へ
  日盛りの雲切り裂いて戦闘機
  ドン底のゴルフカウント秋暮るる
  老犬の上目づかいや秋の風
 
小松扇栄(札幌市)
  新玉の柏手ひびく三世代
  初物の先づは夫へさくらんぼ
  夫の声胸に遺して半夏年
  シベリアのクラスメイトに秋便り
  屠蘇祝う孫の胎児にそつと触れ
 
小松正幸(札幌市/丹)
  渓流の朝日留まる猫柳
  春泥や昭和の露地のケンケンパ
  人の笑み誘ひて桜ほころびる
  胡弓の音闇に欷くやに風の盆
  百合鷗フェリーの空をほしいまま
 
小路裕子(札幌市/ロマネコンテ)
  凍返る鞄の底に砂袋
  花楓こぼれて魚群驚かす
  道産子の神馬に舞ひ来針槐
  秋天に人送らむと馬頭琴
  肩肘の力抜けよととんぼ来る
 
今鴎昇(恵庭市)
  老鶯やなほ矍鑠と声の張り
  青葉潮九十の才の満ち充つる
  老幹の生ねんごろに泉汲む
  終戦日法話は常の語り草
  今生の刻の流れや慈悲心鳥
 
近藤ゆたか(札幌市/雪嶺)
  キャンドルに零れる笑みと白い息
  雲一朶どつしり構え春残し
  蒲公英の絮毛ふわりと空の旅
  あてもなく彷徨う旅や鰯雲
  四季の花器揃えて句会秋日和
 
近藤良子(由仁町/壷)
  匂ひ立つ土に声かけ声かけて
  こつぜんと破るる能面北辛夷
  蜘昧の子の光の粒となりて散る
  薫風やひとりつきりの野良仕事
  ちちろ鳴く闇にもあらん透明度
 
後藤純子(札幌市/方円)
  風薫る校舎に響く九九の声
  たらの芽を貰ひ厨の灯をともす
  船頭の錆し唄声霞の原
  天高く初宮の子のよく眠り
  味噌玉を妣の真似して甕に投げ