四 季 の 小 路
   
村山弘子(砂川市/夏至)
  勉強嫌ひ窓から買った焼芋や
  母の名のとなり父の名墓洗ふ
  蜘蛛の糸めだたぬ所選びけり
  十字架のおほよそは木で桜かな
  蝉時雨蝉はどこかにきっとゐて
 
室谷寿美都(札幌市)
  そぞろ行く三年坂や春灯
  千筋の光となりて穀雨かな
  逃げ水やうそを誤魔化す嘘をつく
  山背吹く小樽は真つこと坂の街
  鈍色に川面たそがる麦の秋
   
目加田懋(札幌市)
  尻尾振り草に春嗅ぐ仔犬かな
  黒土にそつと見得きる蕗の薹
  残り香を風が持ち去る更衣
  つかの間の四十九日や麦の秋
  音立てて戸を閉めてみる秋の暮
   
茂田慶花(旭川市/樹氷・玄海)
  またひとつ蝦夷春蝉の山となる
  鶴を呼ぶ涼しき声のつる男
  分校は丸ごと蝉の森であり
  ローズガーデン眼下に豊の秋展げ
  秋の噴水みずのすきまを空が埋め
   
本ゆみ(札幌市/草木舎)
  店先の二冊百円西日射す
  とんぼうの群れの中なる誕生日
  春寒を掃き出しており坂の家
  からっぽの鳥籠冬の日がいっぱい
  海沿いに旅はじまりぬ豆の花
 
元木栄子(札幌市/蒼花)
  きはやかに朝のはまなす啄木碑
  壁泉の音のせてきし初夏の風
  壁泉は大き花活け凌霄花
  山門の風の抜け径こぼれ萩
  とんぼうや味噌蔵今もなまこ壁
   
桃木光子(札幌市/ホトトギス・ひろそび)
  万葉の風立つ日なり野に遊ぶ
  一筋の川万緑を抜け来る
  ゆるやかに風走りゆく植田村
  少女らの二の腕白き夏立ちぬ
  風いつも新緑にあり人にあり
   
森葆子(札幌市)
  診察を待つ間眺める花は葉に
  萍や池のしじまを震はせて
  掌中の珠と手に取る水蜜桃
  あるだけの目差し集めて石蕗の花
  春遠し立つも坐るも声出して
 
森田佳代子(札幌市/百鳥)
  鳥ごゑとキッチンの音聖五月
  別々に来て噴水の風の中
  水の秋貝庖丁と言ふがあり
  母の名の道は聖書にクリスマス
  河鳥潜るたび雪とけてゆく
   
森田芳雨(遠軽町/葦牙)
  少年兵たりし事など昭和の日
  少年の匂ひす黴の戦闘帽
  恐山妖気漂ふ風車
  鐘の音に牛鳴き返す夕立晴
  唐黍を食ぶる別腹獺祭忌
   
森田みどり(札幌市/花桐)
  雪遊びに疲れ果てしか鉋の熟寝
  テーブルに小さきしあはせシクラメン
  冬囲ひとかれし木々の深呼吸
  常盤木もいつしか新緑まとひ来し
  掬ひ取りまゝならずして買ふ金魚
    
八木澤賞(札幌市)
  蒲公英の色に和らぐ倉庫跡
  夏雲を真横に切つて日本海
  雷の一声毎に寄つてくる
  口火を切る一匹の居て蝉時雨
  流星の去つていつもの夜空かな
   
安田孝子(小樽市/天為)
  父の忌や星降るやうに蕗の薹
  星ひとつ大きくうるむ春祭
  白魚の網よりこぼる日の雫
  曼荼羅の道は空へと鵙日和
  大仏の膝も借りたる煤払ひ
   
安田豆作(幕別町/柏林・ホトトギス)
  固雪に豚鼻当てて水すする
  春泥に汚れてをらぬ仔豚の目
  大豚の春眠耳を庇とし
  牧柵に尻掻く豚の昼寝覚
  南瓜食ふ豚は黄色く鼻染めて
   
安田竜生(網走市)
  生涯で一番幸せなる端居
  右翼とか左翼とか云ひ西瓜食ぶ
  背伸びして小夜着干す妻秋日和
  届け先なき老いの日のお萩食ぶ
  荒涛に流氷山脈生れ崩れ