四 季 の 小 路
   
前原絢子(札幌市/河)
  海五月夕日に向けるデッキチェア
  沈む日に麦秋といふ地平線
  パイプ椅子重ねて終る芸術祭
  ゆく秋の胸の白帆をたたみけり
  衿立ててトランジットの椅子にゐる
 
籬朱子(札幌市/銀化)
  屠蘇散の中に漢語の詰まりたる
  古池のやうな煮凝取り分くる
  花束の数だけ別れ鳥雲に
  罹災地のテントの数の春ともし
  四つ角に杭打てば立つ草の市
   
正富るり(札幌市)
  春愁や亡き愛犬の散歩綱
  たんぽぽや水子地蔵の小さき足
  草笛を競ひ合ひたる下校の子
  束の間の富士の型や秋の雲
  名月の歪む池面の静寂かな
   
増田植歌(名古屋市/ホトトギス・雪華)
  団子屋も道濯山も子規祀る
  教室の蒸発皿や雪催
  鉄の街裏返すごと雪景色
  多喜二忌や銀行員の黒鞄
  豊饒の乳房を誉めて鏡餅
   
増田奉子(黒松内町/アカシヤ・さるるん)
  天空の深き青さや末枯るる
  友の来てしばし続くや雪談義
  子の親となりし長男春立てり
  ベビーカーにまどろむ嬰の夏帽子
  遠来の句友とつどふ夏ひと夜
 
松王かをり(札幌市/銀化)
  だし巻に春の空気を幾重にも
  八月てふさびしがりやの大男
  手に重き一房秋の密度なり
  秋草の中の結界熊祀る
  曳船の喫水深しゆりかもめ
   
松岡正子(札幌市/ミモザ・花桐)
  寒晴れや道譲られてまた譲り
  恙なき娘よりの電話雛飾る
  遠足の園児の列の途切れがち
  夏きざす少女の長き手足かな
  藤の昼向ひ合わせのベンチかな
   
松田静枝(札幌市/郭公)
  声まざと龍太の書翰花こぶし
  とげ抜き地蔵地雨の中を鳥交る
  葭切の鋭声の空のがらんどう
  無雑作に土間のたかんな泥のまま
  啄木の墓所乱鶯の深空あり
 
松田順子(札幌市/道)
  いつ頃にくるかと思う町ぼたる
  秋天やとぼとぼ歩く鴉いて
  今日もまた仏飯忘れ今年米
  紅葉となりて区役所絵になりぬ
  先ず一つ思わせぶりのはたた神
   
松田ナツ(札幌市/泉)
  弓なりに地平線あり初鴉
  フラメンコ教室の影春ともし
  逆礼に噴水の芯見えにけり
  秋風や慰霊碑はこの橋の下
  朝の日をいつきに返す凍土かな
   
松永惠子(室蘭市/青女わかくさ・若葉)
  アイヌ名の町に住み古り小鳥来る
  老いてなほ人恋しさに夏炉焚く
  花過ぎて一人暮しもいつか慣れ
  晩秋の雨のひと日をミシン踏む
  山つつじ昔のままの砂利の径
    
松原節女(旭川市/青女わかくさ)
  借景の橋の欄干小鳥来る
  棒のごとうなじを立てて雁の陣
  大空の雲足迅く木の實落つ
  兼題の雪詠み八十路まろく居り
  春めくや寄席に身を置く隠居分
   
松原美幸(札幌市/ホトトギス)
  薄ら日の裹参道のそぞろ寒
  養生につとめる日々よ庭たたき
  白鳥にこころ残してかへりけり
  凍道や愚痴をこぼさぬ歩みとし
  避寒旅つぶやきほどの忘れ潮
   
松原利尻(名寄市)
  厳寒の落日ぎらぎら朱を濃くす
  飾り海老はるか米寿の峰あをぐ
  月涼し丘の真中の一灯火
  一人のみ残る戸籍や日向ぽこ
  戦争で武運永らえ日向ぽこ
   
松村美乃(札幌市/ミモザ)
  父の歌今も聞きたし仏生会
  春炬燵電話のベルの遠く鳴る
  更衣校門に白輝けり
  風鈴の欠けたる跡も昭和かな
  電話では言へぬことあり夜の秋