四 季 の 小 路
 
伊藤朝子(鹿追町/樺の芽)
 寄席の手に昭和の文化初笑い
 啓蟄の雲淡々と押されゆく
 金時計授与されて孫卒業す
 遠き日を繕う山路蕗のとう
 憂きことの多々ある世代七変化
 
伊藤えみ子(札幌市/道)
 心音のやうなる雫木の根明く
 聞くのみの父祖の出自や蜃気楼
 蜘蛛の囲や壁に迷路の設計図
 家系図の殿に父蝌蚪生る
 戦場は奈辺にありや蟻の列
 
伊藤句麿(美深町)
 初明りミルカー脈を打ち始む
 落ちるまで汚れを知らぬ枯葉かな
 牧草と露を丸める牛の舌
 蝿叩き振り揚げてみる一茶の句
 日脚伸ぶ手を引かれゆく認知症
 
伊藤淳雨(岩見沢市/雲の木)
 初詣くぐる末社に穂多木の名
 極楽の余り風受け昼寝かな
 名人の郭話や秋の寄席
 芝浜を聞いてうなづく月夜かな
 淪落の女横寝の秋扇
 
伊藤スミ(札幌市/花桐」
 スカイツり-富士を遠くに春霞
 雪解水飛びはねている赤い靴
 蝉しぐれ振りそそぎ来る真昼かな
 アイドルになりたき少女サクランポ
 何時よりか人亡さ庭や酔芙蓉
 
伊藤玉枝(小樽市/ホトトギス・葦牙)
 草になき風葉桜にありにけり
 葉桜や万年筆で書く手紙
 葉桜の下に木椅子を移しけり
 葉桜や血を殖やすてふ赤ワイン
 新しい句とはどんな句花は葉に
 
伊藤千代江(札幌市/蒼花)
 星一つ飛んで師の忌と思ひけり
 リハビリの沓はピンクや秋暑し
 芥捨てにコスモス一花揺れやまず
 ふるさとをコキと当てたる梨の芯
 秋の山面影ひとつ越えゆけり
 
伊藤津良(汀別市/氷原帯)
 電柱が片手の手袋はいている
 東風吹いてあご柔らかく剃りやすく
 流氷原どこまで歩いて行けるやら
 風花や消息不明の同級生
 まっ先に走ってまわる土筆かな
 
伊藤哲(札幌市)
 草萌や笑ひの絶えぬ女学生
 波音の硬さほぐるる日永かな
 弾みたる音符の如き若葉かな
 道順を英語で答へ花は葉に
 紫陽花の空き家の主偲びけり
 
伊藤はくみ(札幌市/ホトトギス・玉藻)
 野遊や車に犬の指定席
 すべり込む列車を照らす寒の月
 花水木水琴窟の音の優し
 夕食は外でと決めて日短
 雪解や洗炭の川のよどみなく
 
伊藤春子(中標津町/りんどう)
 しばらくは霧氷の朝陽並木路
 遠き日の母の背語り春遠し
 ふる里やおさげ髪なる終戦日
 台風のうごきたしかに窓を打つ
 玫瑰や古庭深く咲き誇る
 
糸賀治子(札幌市/ホトトギス・夏至)
 鮭番屋勝手振舞ひ鍋たぎる
 夜すがらの海鳴りを経てきたる鮭
 健康な空腹感に鮭はららご
 学問の窓にも幾重稲架襖
 自然薯の掘りたてを摺り夕ごはん
 
井戸川芝津夫(北見市)
 秋の声拾ひつゝ園散歩道
 長月や往時まなうら永平寺
 秋風に片寄せられて水馬
 光陰は永久の過客よ秋も行く
 をろをろと蝶の飛びゐる萩を刈る
 
井戸川廣子(北見市/ホトトギス)
 こぶし咲き布のゆれてる如きかな
 一塊は雨の落ちそうな秋の雲
 赤い羽根帽子に付けて老女行く
 秋晴や記憶の静波山湖かな
 秋霖にテニスコートの暇さうな
 
伊野多聿男(札幌淑/草木舎)
 連翹やうすくくもれる地平線
 母の日や母のカラーの写真無く
 杖の音ゆっくり秋に入りにけり
 秋深し石には石の相ありて
 警官のかたまつてゐる雪の辻