四 季 の 小 路
   
藤田洋子(小樽市/鶴)
  牧開き牛は鼻紋をとられをり
  傷に貼る十薬のこと祖母のこと
  蝦夷蝉の八月六日九日と
  ひゆうるると列車の鳴ける野分かな
  霏霏と雪いよいよ肝の据るころ
 
藤野信一(伊達市)
  山鳩の声くぐもりて秋の雨
  夏帽子二重ねして野良廻る
  火の山の裾野が染る麦の秋
  飯台に真赤なとまと山に置き
  大花火波が岸よせ揺らぐ湖
   
ふじもりよしと(札幌市/晏・itak)
  木の舟と木の飛行機と冬座敷
  片栗の花だと思う金閣寺
  噴水や街で孵化する詩人たち
  村上春樹海霧の中行くダットサン
  方丈の古典の好きな赤蜻蛉
   
藤森美千子(札幌市/晏)
  淡雪や玄関に新スニーカー
  蜘蛛の囲の荒々しくて石狩野
  象遣いになりたき少女著莪の花
  寒菊や早出の夫に卵焼
  狼になり十勝野を縦走す
   
藤谷和子(札幌市/草木舎)
  短夜の首を真珠のふためぐり
  前方に防犯カメラつばくらめ
  行く夏へ三百六十度廻る椅子
  雁渡しあなたは五時の汽車に乗る
  湯婆抱へ四畳半へと急ぐかな
 
藤原九子(積丹町/さるるん)
  のどけしや筵三枚干されあり
  夏の雨父出棺となりにけり
  ハングルで会話の少女爽やかに
  しぐるるや二番ホームに客一人
  しずしずと十二月八日となりにけり
   
藤原志峰(登別市/青女わかくさ・若葉)
  旅人に釣瓶落しの地獄谷
  薄暮なる海を照らして冬の月
  白鳥の群れをる渚昏れのこる
  河口波届かぬあたり夫婦鴨
  古草を踏みし川辺の獣あと
   
藤原文珍(札幌市/鷹・itak)
  給油車の去りし油膜や冬に入る
  入社式手話の通訳袖に立つ
  めまとひや水無川にゐる獣
  陽炎や女の口は嘘をつく
  凪ぐ海やけふは海月のよく釣れる
 
藤原美栄子(むかわ町/葦牙・氷原帯)
  願いごと絞り込みたる初詣
  囀りや校舎の廊下乾拭きす
  嫌われる蛇に気付けばなっており
  日向ぼこ猫の尾ゆったり陽を回寸
  手品師の冬陽あやつる真顔かな
   
船尾恭子(江別市/萬緑)
  金星へ探査のこの世年明くる
  曇りとて青田うるはし石狩路
  涼しくも玉砂利歩み薬草圉
  山清水曵きよせ水性薬草圉
  七夕の宇宙へ飛翔日本人
   
舩島美恵子(千歳市)
  果てしなき宇宙に夢や子供の日
  幼児と稚魚の放流郭公鳴く
  新米の届きて電話放言に
  苔まとうふるさとの梅今を咲く
  数え日やメモーつづつ消されゆく
    
船矢深雪(函館市/艀)
  年月の畳まれている鯉幟
  台湾語英語日本語夏御輿
  ちちろ虫昭和語らず逝きし父
  人力車並ぶ浅草鰯雲
  雪女俳句工房台所
   
古川ウヰ子(江別市/郭公)
  新宿西口はつふゆの日ざしかな
  咳をして転げ出でたる風邪の神
  老人の福耳田螺鳴きにけり
  花粉とび胞子とび山春ふかし
  水打つて声明のこゑ待ちてをり
   
古川かず江(札幌市/晏)
  親を国を選べず生まれ梅真白
  すれ違う白シャツ森の香を放ち
  一人居の家売る話のうぜん花
  机上にまるめろ暗黒星雲を探す
  鳥渡る郵便受けに家族の名
   
辺見綾子(小樽市/ホトトギス・悠)
  運転をつひに諦め十二月
  わが愛車雪に轍を残し消ゆ
  在りし日のごと家の前チューリップ
  表札を外し売る家薔薇ひらく
  命日の供花に秋草足しにけり