四 季 の 小 路
   
辻脇系一(札幌市)
 せっかくの五月たらの芽取る食す
 残りめし饐えず戦後を七十年
 眼裹は純白平野朝を糞る
 地には祖初雪残雪白鳥百
 識閾に鶴片足で佇っている
 
津田とわ子(札幌市/大為・樅)
 えぞにうや山風荒き日暮くる
 山霧の谿へなだるる国境
 神々の庭てふ山やお花畑
 揚羽蝶風のカムイの遊びをり
 天の川山荘に永響きゐて
   
土屋陽子(札幌市/道・雪解)
 山巓へひかり振り撒く猫柳
 白鳥の引きし山湖に深き黙
 開拓のむかしありけり水の秋
 飴色に夜の透くまで大根煮る
 閉校となる校庭に大雪像
   
角田桑里(札幌市/秋・壺)
 金色の日矢燦燦と蕗の薹
 若草に転がってゐる力石
 海の香の棒鱈焙りワイン酌む
 夏扇能の余韻を畳みけり
 姉の忌や庭広々と柿の花
   
鶴田伸子(釧路市)
 意のままに生きてもみたし初鏡
 ゆるり揺る松深々と雪帽子
 卓袱台に家族の揃ふ昭和の日
 炎昼に打つ碁の一手風起こす
 塩害や雨降るやうに夏木の葉
 
寺田保子(釧路町/道)
 産土の闇の韻文雪解川
 一歩二歩三歩に惑ふ春の泥
 三寒四温陽にほろ酔ひて雑木山
 黄水仙群れて真顔を向けられし
 木の名札読みてはすすむ青葉径
   
遠山宮子(札幌市/葦牙)
 本道の四辻にはたと黒揚羽
 秋耕や漆黒の海となる十勝
 霜柱地球大きくなりしかな
 うばゆりのすつくと枯るる奥社
 暁光や山赫々と冬に入る
   
戸澤晶子(札幌市/花鳥)
 火の山の麓やはぐれ来し白鳥
 秘境駅三つ消えゆく浅き春
 淡雪やなかつかことにしたきこと
 更衣写真の母の蒼き服
 片陰のパン売る娘ルーブル宮
 
戸澤のりこ(札幌市/花鳥)
 卒業の窓にへのへのもへじかな
 恋といふ予測変換春の夜
 ユニフォーム脱ぎ少年の夏終わる
 鱧食ふて阪神ファンの小料理屋
 さういへば風鈴ちりんとも鳴らず
   
戸田幸四郎(札幌市)
 枯れきって百年塔の孤高かな
 日本は紙の国とよ書初
 雪割って吾に光を充満す
 青芥子や遠き見知らぬ空の色
 子規庵に記帳了ふれば風五月
   
富崎季実子(札幌市/樅)
 動くともなき朧夜のいさり舟
 捩花のねじれは風にまかせをり
 寝不足の怪盗ルパン明易し
 馬の絵の未完しきりに木の実降る
 鉄火とは無縁枯野を行く私
    
戸来和子(積丹町/さるるん)
 余震なほ見舞ひ五行の文の日よ
 風鈴売り岬の寒さをぽつと云ふ
 岬と岬つなぐ七村いか釣り火
 沖風の岬より晴れてうに祭
 ねじり鉢巻き決まりうに漁師三年目
   
土門きくゑ(初山別村/若葉・青女わかくさ)
 ナースらの遅き夕餉や遠花火
 代筆の患者の願ひ星の竹
 手花火に屈み患者の童女めく
 透析のベッドに釣瓶落しの日
 目貼して急栫への点滴室
   
土門丈士(北見市/道)
 廃校の夢と絆の卒業歌
 春寒や大地を走る新幹線
 電線に居並ぶ鳩の朝曇
 バス待ちのほのかに薫る菊の花
 ぽかぽかと朝刊配る背にカイロ
   
中神洋子(札幌市/アカシヤ・さるるん)
 虎杖の花のうねりを乗りつげり
 書き出しにつまづく文や花の冷
 水中花声にも老のありにけり
 はらからの少なくなりぬとろろ汁
 新涼や洗濯物に日の匂ひ