四 季 の 小 路
   
椎名智惠子(札幌市/澪)
 サハリンの虹消えるまで消えるまで
 つば広の帽子と海と夏は来ぬ
 湖わたる風は野の風秋立てり
 夢に逢ふ師はすこやかに天の川
 眼差しは一途がよろし鳥渡る
 
鹿岡真知子(札幌市/氷原帯)
 九十の母立つ坐るたんぽぽ野
 親の家壊す更地に蝶生まる
 シャンプーの泡に勢い雪が来る
 ゆでたまごを剥く白鳥を待つ時間
 卵溶く今日は雪になる気配
   
茂尾喜美子(黒松内町/アカシヤ・さるるん)
 去年今年白き肌着を白く着て
 余花残花かつて先師のたつき跡
 花胡瓜夕には硬き実をむすび
 生業の新そばを打つ母の背よ
 黒を着ていろなき風の中にかな
   
品田多恵子(札幌市/玉藻)
 ラグビーの応援増やし五郎丸
 御仏に祈りし姿ラガーかな
 温室咲きの彼岸桜に集ひけり
 雪原に白樺の影細くあり
 花人となりて華やぐ今日一日
   
篠田ムツ子(札幌市/羽化の会)
 初鏡顔のほくろのありどころ
 春の旅脚の痛みを連れ歩く
 窓からの風をからめて冷素麺
 草むらに返す蜻蛉の骸かな
 ふる里の香りかぎつつ柳葉魚焼く
 
篠原由子(札幌市/道)
 中吊の背を押す言葉弥生尽
 CTに熱き血潮よ聖五月
 天使めく背中のフリル日焼の子
 蝉の翅一枚を乗せ風走る
 とかへずに昨夜の闇をちちろかな
   
芝崎秋水(札幌市/水聲)
 凍海に押潰されし日の出かな
 異次元の自在な飛翔雪蛍
 仰向けの猟虎労はる涅槃西風
 風に押され歩き冬日は遠すぎる
 咳をしてもひとり秋深し
 
柴田和子(帯広市/郭公)
 芽からまつ農学校へつづく道
 のどけしや耳を澄まして目を閉ぢて
 現し身のタチツボスミレほどの夢
 倒木の洞の光陰新樹光
 あらあらと妻恋ふ鹿の命美し
   
柴田ミヱ(札幌市/花桐)
 日脚伸ぶ墨の香匂ふ写経かな
 ガラス拭き窓より春を入りにけり
 仏壇に夜の匂ひの桃二つ
 痛む膝そつと崩して報恩講
 腰まがりこれも勲賞敬老日
   
渋谷マサ子(札幌市/天為)
 花葵第二庁舎の月曜日
 昼顔や緩き引綱マルチーズ
 絹雲の架かるみ空や夕牡丹
 夕闇の引き寄せている遠蛙
 明け易き浦賀水道旅仕舞ひ
   
澁谷さと(小樽市/天為)
 今朝秋の銀鱗荘の高き梁
 さいはての夕日に染まる珊瑚草
 風のなく薄き光に大根干す
 冬深し多喜二の母の文を読む
 産土の雨も景色となる植田
   
島泰(札幌市/かたかご)
 笹起きて風の遊びに来たりけり
 無辜の民祀る灯か水芭蕉
 薫風のここに集る花時計
 朴散華して木洩れ日の又一つ
 産卵の鮭が鰭打つ川の波
   
清水里美(岩見沢市/小熊座)
 螻蛄鳴くや人滅ぼすは人か天か
 北極の氷解けゆく南無阿弥陀
 春日射すおとみさんとは吾の歌
 死のありて生のかがやく青葉かな
 秋天や君らゴジラのひとつまみ
   
清水芳堂(福島町/道)
 群來といふ地名の湾の鰊空
 虻一匹連れて釣の子川渉る
 遠畑にちちははがゐる初嵐
 弁慶が目を剥いてゐる里の山車
 雪の果糶落とさるる深海魚
   
清水道子(小樽市/丹)
 この樹とは同い歳とふ桜守
 この国の神仏混淆稲の花
 押しとほす色でありけり吾亦紅
 冬服にあそぶ釦のなかりけり
 鮟鱇の不覚の貌を投げだせり