四 季 の 小 路
阿部幸子(札幌市/蒼花)
懐手修羅も涅槃も飲み込んで
はらからは皆恙なく墓洗ふ
母を恋ふ氷まじりのニシン漬
広辞苑閉ぢて背伸びや夜の秋
好きな路気ままに歩く菊日和
阿部れい子(北竜町/道)
意気地無しそんな声する背の霰
闇の中如来の在す冬座敷
狛犬の阿のロ覗く冬紅葉
裸木の本音聞かむと星宿る
冬鏡納得ゆかぬ試着かな
天田牽牛子
羊蹄山に彩雲ひそと初景色
雁風呂や沖を翳らす雲のいろ
マネキンの面輪物憂き署かな
面接に臨むLづけさ白木槿
満天の星澄み渡るしばれかな
荒川弘子(札幌市/雪嶺)
賀状来る年限りと書き添へて
百合の香に噎せじんじんと人泣けり
折り紙の鶴は飛べずに原爆忌
花蓼のゆるる小径を急ぎけり
露霜や水茎うすき文届く
嵐迪子(札幌市/ミモザ・鴻)
開拓を怙ぶ馬魂碑草萌ゆる
噴水のクライマックス去りがたし
更衣港の街を訪ねだり
手水鉢花どくだみに囲まれり
空っ風地下の出口を通せんぼ
新出朝子(札幌市/かでる)
蝦夷鹿に冬青空がいつも飢ゑ
マチュピチュが見ゆマフラーを外すとき
昆布〆のタイヤヒラメや寒明ける
落下する途中で学ぶ鬼の豆
土砂降りの後の蘖ピアノ音
荒船青嶺(札幌市ノホトトギス・玉藻)
来てみれば近き羅臼やいわし雲
いわし雲羅臼岳より羅臼山
鯨観る展望台や北方四島そこに
四島を視界に野紺菊の晴
熊撃ちの視覚聴覚研ぎ澄ます
安斉峰子(旭川市ノ氷原帯)
片乳の翼となりぬ赤い羽根
今はもう死語同然の女郎花
君の名はと聴かれてみたい女郎花
惑星の夜露に濡れてしまいけり
地図上の古郷さがす秋の暮
飯川久子(札幌市/鴻・花桐)
黄水仙いつか更地となる予感
クリオネの喝采春を呼びにけり
涼新たこの頃指輪抜けやすし
空堀の枯葉からから美濃尾張
角巻や翼のやうに子を抱きぬ
井内果洞(札幌市)
太陽の芯まで詰まるりんごかな
セーターの解かれ来歴一つ消ゆ
人去りし里が故郷燕来る
パスカルもヘッセも遠く魂迎へ
ゆきゆきて紅葉へ暮れし渓の宿
井内千鶴子(仁木町/葦牙)
佐保姫の眠りを覚ます水の音
蓮花をゆらして浄土池の鯉
天と地の神の交信サンピラー
蛍火の記憶は母郷畦の道
巨狼碑やシリバに賛と秋の虹
五十嵐秀彦(札幌・itak・雪華)
冬隣キトクといふ字書けぬまま
五体貧しく雪の暗渠となりぬ
明日生きることの悦楽冬麗ら
起源問ふ母の眼の色冬北斗
息を吐くごとく枯野に書物閉づ
池田北陽(岩見沢市/雲の木)
カーテンを引けば来ている窓若葉
新緑に映えて白樺孤高なり
蜆汁出されて嫁にありがたう
ハイタッチしてリハビリや冬日指す
居酒屋に忘れ候冬帽子
石井こう子(小樽市/鶴)
木の根開く凹み一斉アートめく
堅雪に熊目撃のニュース早
竪琴のロビーライブや夜の新樹
駅裹のレンタサイクル夏始
リラの香の札幌の夜や旧端午
石川惠子(帯広市/道・澪つくし)
絞り出す絵の具のごとく雲の峰
西瓜抱くみえぬ心を抱く様に
涼風や生きる力の押し花展
木の芽風母の古着のよみがえる
硯洗う墨黒々と父の文字