四 季 の 小 路
片岡璋子(七飯町/雪)
旅立ちの大志に蕗の薹たけし
父母遠くなりアカシヤの街もまた
この町を終の地とせる花林檎
いのちあるうちにと日がな蟻の列
それぞれの心に故人月仰ぐ
勝俣慧子(札幌市/郭公)
故郷の同窓会や雪明り
春の灯や文を綴りて人の待つ
母の忌に不遣の雨や額の花
指差して児におしへたり梅雨の虹
廃鉄路歴史を繋ぎ花すすき
勝俣比とし(札幌市/郭公)
釣好きが山女を描きし年賀状
雪解の夜どの木も雨に浸りゐる
雲あらき砂丘のテラス夏惜しむ
秋涼し夕日が幹を照らすとも
楢林散りきれぬ葉も霧氷せし
桂井悛子(札幌市/天為)
夏空へ北の大地の風響樹
樹齢百年若葉の風の生るる里
浦路来て白一輪の延齢草
リラ冷えの時を刻める花時計
夏旺ん楡の大樹の農学部
加藤あや子(南幌町/今)
駈け廻るすこやかな脛南風吹く
キャンパスの茂りに灯る資料館
名月やクレーンは首を憚からず
うたた寝は一瞬のこと小鳥くる
沼の面の勣くともなき寒の入り
加藤和子(小樽市/青女わかくさ・若葉)
おぼろ夜の旅立ちに梳く九十九髪
しののめや辻が花めく雲は秋
石狩の曲瀬の秋草咲きそろふ
蛇の衣あたらし泥流避難磴
野分立つ入江の鳶睦れ舞ひ
加藤恵子(札幌市/澪
噴水の透き間より風こぼれをり
足音もへばりつきたる酷暑かな
けん王の皿に乗せたし夏の月
澄む秋や母音こぼるる乳母車
宵闇や綺羅星のごと摩天楼
加藤廣子(小樽市/天為・アカシヤ)
北天の星きりきりと冬深む
三猿の上鈴を鳴らす春隣
砂浜にブリキの金魚春夕焼
さみどりの風にさざめく針槐
石底にゆるる本洩れ日水の秋
加藤ひろみ(旭川巾/雪華)
虫害の仔細も見ゆる初紅葉
逝く秋の端山青空ちぎれ雲
難なきと言へぬ来し方星月夜
断腸花身の内に引く雪間の陽
死に方も学ぶ生き方雪涅槃
加藤弘美(札幌市/ホトトギス)
吾子目指す未来こそ我が恵方かな
待春や匂ふほど研ぐ花鋏
海の日の絵日記青のあふれけり
星月夜光年の差の揺らぎ合ふ
萩の露鈴ふるやうにこぼれけり
加藤房子(札幌市/はるにれ)
向島までは卯波の十五分
花菖蒲母の好みし形見帶
山開溶岩の休足岩桔梗
竹の春修善寺彫の茶杓買ふ
冬帝や雲裂く日矢の神々し
加藤雅子(苫小牧市/いには・明日葉会)
葉のうらのでで虫五粍雨余の畑
南風や海辺の百円ショップまで
煙茸蹴って少年走り出す
戸のかたと訪ふはどなたや秋の声
冬霞樽前いよよ遠ざかる
加藤みよ(札幌市)
幹あらば人は倚りけり秋の雲
人はみな帰る家あり雁の秋
恋塚へ風の添ひゆく月見草
ピアニシモ暗譜の顔の春愁ひ
春昼や木端仏みな童女かな
門崎博雄(上富良野町/壺・阿蘇)
をろがみて夕張メロン頂けり
失望も希望もグレー青葉闇
曖昧に過ぎゆく余生秋立ちぬ
水澄むや遠くの人に文を書く
新しき靴の軽さや紅葉狩
金井衆三(札幌市)
羊蹄は恵方にありて歯朶飾る
甘噛みの波くりかえす春の海
新樹光ペルシャの子猫水をかむ
現つとはかくもしなやか風の盆
夕時雨ぬるりと烏賊の腸を抜く